仔猫を飼った後

知っておきたい!致死率が高い「猫伝染性腹膜炎」ってどんな病気?

猫の感染症は、時に命に関わる危険な病気が多くあり、それぞれの病気には押さえておくべき特徴があります。
ここでは長く飼っている猫はもちろん、特に子猫や、飼い始めに気を付けたい感染症のうち、ワクチンがなく、発症すると死に至ることが多い「猫伝染性腹膜炎」について調べてみました。

◇猫伝染性腹膜炎の病態と症状

「猫伝染性腹膜炎」とは、コロナウイルスの一種である「猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)」によって引き起こされる、一連の症状を指します。
猫伝染性腹膜炎ウイルスは、自然界には存在せず、多くの猫が保有している「猫腸コロナウイルス(FECV)」という病原性に乏しいウイルスが、ある時、猫の体内で突然変異して出現します。
突然変異を起こす原因は一様ではありませんが、子猫(3ヶ月〜3歳)、老猫(10歳以上)、ストレスを抱えた猫、など免疫力が衰えた猫に多く発症するという点は共通です。
猫腸コロナウイルス(FECV)を保有した猫うち、猫伝染性腹膜炎を発症するものは、10%以下と推定されています。
猫伝染性腹膜炎の症状には、以下のようなものがあります。症状の現れ方が一定せず、急激に発現することもあれば、数ヶ月かけて徐々に進行することもあります。予後は非常に悪く、ひとたび典型的な症状が現れると、致死率がほぼ100%という恐ろしい病気です。

 

◇猫伝染性腹膜炎の主症状

①乾性型

乾性型は、「ドライタイプ」や「非滲出型」とも呼ばれ、化膿を伴う肉芽種性の病変を特徴としています。
食欲不振や体重減少などの慢性症状のほか、腎臓、肝臓、腸、神経(運動失調)、目(ぶどう膜炎、脈絡網膜炎)などに様々な症状が現れます。免疫反応が通常よりもやや劣る猫に多いとされます。
高熱が出ることがほとんどで、目の虹彩が赤く濁る(ぶどう膜炎)ことで気づくこともあります。

②湿性型

湿性型は、「ウエットタイプ」や「滲出型」とも呼ばれ、タンパク質を多く含んだ漏出液が胸腔、腹腔、心膜腔といった、体内のあらゆる隙間に貯留をするのが特徴です。
腹部に水がたまって異様に膨らむ腹水や、胸膜炎及び胸腔に水が溜まる胸水などの症状が現れ、結果として呼吸困難に陥り、数日〜数ヶ月内に死亡します。
免疫反応が通常よりも悪い猫に多い、とされています。

今現在、病原性の低い「猫腸コロナウイルス」と致死率の高い「猫伝染性腹膜炎ウイルス」を、事前に見分ける有効な方法は存在していません。
しかし2013年に行われたコーネル大学の研究では、腸コロナウイルスの表面にあるスパイク蛋白を調査することで、それが猫伝染性腹膜炎ウイルスなのかどうかを知ることができる、という新発見がありました。
この発見により、効果的なワクチンや、新たな治療法が今後開発されるかもしれません。

*コロナウイルス

コロナウイルスの「コロナ」は、表面に存在する時スパイク蛋白が、まるで太陽が放つコロナ(corona)のように見えることから名付けられました。
猫における猫腸コロナウイルスのほか、犬に感染する「犬コロナウイルス( コロナウイルス性腸炎の原因)」、豚に感染する「伝染性胃腸炎ウイルス(豚伝染性胃腸炎の原因)」、そして人間に感染する「SARSコロナウイルス」など、非常に多くの亜種が存在しています。
最後の「SARS」とは、「重症急性呼吸器症候群」の略であり、2002年11月に中国で発生し、2003年7月までに700人を超える死亡者を出したことは記憶に新しいでしょう。
なお現在は鎮圧されています。

 

◇猫伝染性腹膜炎の原因

猫伝染性腹膜炎の原因としては、主に以下のようなものが考えられます。予防できそうなものは飼い主が注意して、原因を取り除いておきましょう。

①接触感染

猫伝染性腹膜炎ウイルスは感染力が弱く、通常の接触では簡単には感染しない、と言われています。
しかし乾燥した有機物の表面で、7週間も感染力を維持した、というデータもありますので、油断はできません。
ウイルスが感染猫の唾液や、尿中に混じっているため、これらに汚染された媒介物に、長時間接触すると感染してしまう可能性があります。

 

◇猫伝染性腹膜炎の治療

猫伝染性腹膜炎の治療法としては、主に以下のようなものがあります。
なお、この病気が強く疑われる場合、安楽死が推奨されることもあります。
しかし、現在、病気に侵された臓器を免疫組織染色を用いて、病理組織学的に検査すること以外、信頼性の高い診断方法は存在していません。
特にドライ型に関しては、熟練した獣医師にとっても、生前診断が最も難しい疾病の一つとして数えられています。とはいえ、大切な愛猫を安楽死させる、という判断をするのは辛く悲しいことです。
可愛くて仕方ない愛猫が、目の前で苦しんでいる現実と・・・。辛く悲しいことですが、よく家族で話し合ってください。

①対症療法

猫伝染性腹膜炎ウイルスを根絶する薬剤は開発されていません。現れた症状が悪化しないようにする、「対症療法」がメインとなります。具体的には、二次感染を防ぐための抗生物質の投与、免疫力を高めるための猫インターフェロンの投与、炎症抑えるための抗炎症薬の投与、などです。湿性型(ウェットタイプ)で腹水、胸水がたまっているときは、注射針を用いて水を抜きます。
しかしこのタイプは予後が悪く、多くは数日〜数ヶ月内に命を落としてしまうというのが現状です。

②隔離

多頭飼育やキャッテリ(猫の繁殖施設)において、FIPVへの感染が疑われる猫がいる場合、感染猫と他の猫が接点を持たないように隔離します。
もし感染猫が母猫である場合、移行免疫が切れる前の、生後4週齢頃を目安に子猫を母親から隔離します。

③猫の免疫力を落とさないようにする

猫の免疫力を低下させる「猫免疫不全ウイルス」、「猫白血病ウイルス」への感染を予防するためのワクチン接種が望まれます。なお、アメリカなどではFIP用の鼻腔内ワクチンも入手可能ですが、その有効性は約70%程度で、また16週齢以上の猫にしか接種できないことから、その有効性に対して疑問を持たれています。AAFP( 全米猫医療協会)の2013年度版ワクチンガイドライン(PDF)では、「効果が不明のため推奨されない」と断言しているほどです。
ワクチン以外の方法としては、ストレスの原因となるような環境(狭い空間における多頭飼育)などを改善することも、病気の発症予防につながります。


よく読まれるおススメ記事

  1. この記事へのコメントはありません。